金を掛けずに土地(不動産)の法人化

無償返還届出方式から定期借地権方式に変更しませんか
1.<無償返還届出方式では土地の法人化は困難です>
 建物のみを法人化する場合に無償返還届出方式は多く利用されています。建物を時価(価格時点の簿価(未償却残高))で取得すれば安く取得でき且つ、建物賃料もすべて建物所有者の口座に入るからです。このことは土地所有者(旧土地・建物の所有者)からすれば、建物を譲り渡すことで得られるのは安い地代だけであり、逆に今まで得られていた家賃収入のすべてが失われることとなります。被相続人の所得移転(個人から法人への賃料移転)には効果がありますが、家賃収入を生活源とする場合は何らかの措置を採る必要があります。このような非経済的な手法は同族法人に限定されたやり方と云え、無償返還届け出方式は売主・買主の何れかが法人〈同族会社〉の場合に行われ、個人同士では適用できません。この方式が多く利用されるのは借地権設定に伴い権利金の支払いや適正地代の支払い〈土地価格の6%)が免除されることにあり、地代も公租公課の2倍~3倍程度であれば特に税務上の規制はありません。
又、旧土地所有者(被相続人)が同族法人の株主で無ければ、相続税は自用地の20%引きになります(株主なら20%分は法人の純資産に加算され、相続税は時用地評価されます〉。又、これに拠り法人の株価が上昇すれば、その分は株主への贈与と見なされ、贈与税が課税されます。更に、土地(底地を含む)が小規模宅地等の適用要件を満たすことを条件とし相続時の一定規模の土地につき、その評価を大きく下げられます。これらのメリットは土地の無償返還届出書を連名で税務署に提出し、土地賃貸借契約書を作成し、有償の地代を支払うことで有効になります。
2.<無償返還届出方式でなく定期借地権方式の選択>
土地を法人所有に出来なければ相続人は永久に相続税が課税され続けられ、同族法人は土地利用権が借地権のままでは、資産に土地が含まれず資金調達に於いて銀行の信用も低いままです。又、地価の高い事業用地では地代も高く、相続税支払いのために土地を売却する必要に迫られ、相続した土地は土地の取得時も不明な場合が多く、売却額の5%が取得額とされれば課税額も大きくなります。これを解消する手法として、同族法人は建物を取得した場合の土地利用権(借地権)価値がゼロの無償返還届で方式でなく、定期借地権方式に変更することです。何故なら、定期借地権は借地権価値を有するので底地との交換が可能になり、借地人(同族法人) は交換差額を更地価格でなく、底地価値で買い取ることが出来るからです。更に交換対象物の価値(借地権と底地の価格格差)が20%以内なら等価交換と見なされ、課税の繰り延べが適用されて交換時に金銭の支払いが生じないからです。
3.<無償返還届出方式のメリットをほぼ全部有します>
借地権設定に伴い権利金支払いの監修がある地域に於いて、借地権の設定を行う場合は権利金の支払いが求められます。支払わない場合は更地価格の6%と云う高い地代〈適正地代〉の支払いが求められます。
無償返還届出方式は借地人が借地権価値の主張を行わない約束の下で、権利金支払いが免責されます。これに対し、定期借地権はそもそも設定に際し権利金支払いの慣習がないため、権利金の支払いは発生しません。地代についても適正地代(土地価格の6%)の概念がないので当事者間で公租公課の2倍 ~3倍程度に決めても、それを否認する税法上の決まりがありません。但し、無償返還届出方式同様、公租公課(固定資産税・都市計画税等)程度の地代では使用貸借と見なされます。
4.<定期借地権の活用>
ア.⇒ 最小の費用で土地の法人化を図るには無償返還届出方式より、定期借地権方式がはるかに優れます。将来(30年)の建物買取りを条件とする契約とすれば、建物の買い取りに拠って借地権を消滅させることができます。
イ.⇒ 定期借地権を有効に活用するには借地借家法や民法の適用だけでなく、不動産評価手法の幅広い知識と活用が求められます。借地権価値や底地価値は地代や契約期間や採用する利回り等に拠り価格が決まるからです。
ウ.契約解除については無償返還方式は何時でも解約出来ますが、定期借地権は借地借家法によって契約期間が定められているため、契約時に特約で解約に係る条件を付記する必要があります。尚、地主側からは契約解除の申し出は出来ません。
5.<定期借地権の設定に拠る土地の法人化
ア. 無償返還届出方式が自負する建物のみの購入で賃料の全部が建物譲受人(現在所有者)の物となることの外、店舗や共同住宅等の収益不動産の場合は建物の譲渡しにより旧建物所有者が家賃の総てを失うことがない措置(賃貸人の地位の留保(民法605条の2第2項))が図れます。その場合、このことを定期借地権設定契約時に特約事項とする必要があります。これにより旧建物所有者(賃貸人)は建物の所有権を失っても従来通り賃料の一定額を得られます。手順は借地権と底地の交換に拠り同族法人は土地(底地)を取得します。二つの価格差が20%以内なら、課税の繰り延べが適用できます。20%以上なら交換差金の支払いが必要です。差金を授受した方は所得税等を払います。
土地と建物の双方を取得し完全所有権とするためには当初定期借地権契約で、建物買取取り条件の特約をし、契約後30年経過すれば特約に基づき建物を買い取れます。これに拠り借地権は消滅します。その間(30年間)、借地人からの申請に拠る合理的理由に基づく契約解除の申し出があれば建物を買取り借地権を消滅させられます。具体的には、① 当初、土地・建物が個人所有の下で同族法人が建物だけを購入し(簿価で可)、土地利用権を無償返還方式でなく、定期借地権契約とします。(建物所有者は同族法人)
② 一定期間後に底地と借地権を交換します(建物所有者は再び個人)。
③ 同族法人は個人から建物の全部又は一部を賃借し(民法605条の2第2項「賃貸人の地位の留保)、それを従来からの賃借人に転貸します。その際、世間相場より明らかに安い賃料設定をした場合でも、売買の場合は低廉譲渡と見なされ重い課税がされますが、賃貸の場合はそのような規定はありません。但し、公租公課程度の賃料ならば使用貸借と見なされ借地権の価値を否認されます。又、同族法人が安い賃料を支払っている場合は賃料を損金算入できません。相続発生時に個人が底地所有者であれば相続税は底地に課税されます。現在の国税の相続税評価は借地権価値は安く評価されますが、底地は更地の80%程度の評価をされる場合もあるので、交換するなら相続発生前に行うことです。その際、評価は不動産鑑定評価基準に基づく評価が出来ます。
ア.⇒ 無償返還届出方式は借地権価値がゼロなのに対し、定期借地権は借地権が価値を有します。借地権に価値があれば底地と定期借地権との交換が可能となり、交換若しくは底地の買い取りの活用で最小の費用で土地の法人化が可能となります。定期借地権設定契約では、定期借地権契約の中途解約等に係る特約事項を付記した契約を行うことが大切です。又、交換対象物の価値の差額が20%以内ならば課税の繰延べが可能となり、将来売却するまで課税が繰り延べされます。その際、20%に係る差額金の支払いは自由ですが、差額金を支払えば差額金に対し所得税・住民税が課税されます。
イ.相続発生後は原則、国税評価に基づく評価となります。これに対し、相続発生前ならば国交省の不動産鑑定評価基準に基づく評価を行えるため、最小の費用で土地の法人化を行うためには、ある程度時間を掛けた生前対策が極めて重要です。
ウ.法人化のメリットは売り上げに対する多くの経費が認められることの外、法人所有の不動産には当然、相続税は課税されませんが、被相続人(個人)が同族会社の株主でなければ株式にも課税されません。
エ.有能な不動産鑑定士であれば契約内容を精査し、どのように契約条件を変更すれば底地と借地権の交換に於いて、課税の繰り延べが可能となるかの判断が出来ます。又、交換より底地の買い取りの方が有効か否かの判断も出来ます。尚、定期借地権は契約期間が法律で定められているため、中途解約には特約を設ける必要がありますが、無償返還届出方式は解約に際し特に問題となるような規制はありません。