1.<法人化の利点>
個人事業主の給与は経費計上できませんが、法人なら事業主の給与は役員報酬・従業員は給与として損金計上でき、売上から控除できる経費も多く認められます。更に法人所有の不動産には相続税は課税されません。(但し、被相続人が法人の株主なら所有する株に課税されます。)
2.<最小の費用で土地の法人化を考える>
(1)無償返還届出方式
(中古)建物は土地価額に比べて安いので建物だけを法人所有にし、建物のための土地利用権は当事者が連名で無償返還届出署を税務署に提出します。これに拠り借地権設定に係る権利金支払いが免責され、地代額も明確に使用貸借と見なされない額以上なら特に規定はありません。但し、この方式では土地の法人化を考慮しないため、高額な土地に係る相続税からのの回避ができないことが最大の問題点です。
(2)定期借地権設定方式
建物のための土地利用権として定期借地権を設定すれば、法人は土地(底地)を自用地でなく底地価格で買い取れます。
又、一定期間経過後に地代を含む契約条件の見直しに際し、借地権と底地を交換して土地の法人化を図る場合、借地権と底地の価格格差(高い方の価格に対する)が20%以内なら等価交換に拠る課税の繰延べ(交換時に現金支払・課税なし)が可能となります。更に、交換に拠り建物の所有権が移転しても賃貸人の地位の留保の措置(民法605条の2第2項)に拠り、建物新所有者から建物の全部又は一部を借り受け、これを転貸することで旧来の賃貸借関係を維持できます。この際に建物新所有者から相場より安い賃料で借り受けた場合でも、賃貸の場合、税法はこれを低廉賃料とは見なしません。但し、著しく安い賃料で借り受け、高額な賃料で転貸すれば適正家賃との差額を贈与と見なされる可能性があります。但し、国税は適正家賃に係る査定基準を持ち合わせません。
3.<契約書に拠って総てが決まる>
「最小の費用で法人化」を実現するためは、借地期間・金融利回り・土地利回り・底地価値や借地権価値の評価額・地代や賃料の設定額等に拠って法人化のやり方が決まってしまうため、契約条件等を十分に検討した上で契約書を作成することが極めて重要です。
4.<無償返還届出方式では土地の法人化は困難>
ア.⇒ 建物のみを法人化する場合、建物を時価(価格時点の簿価で可)で取得できます。建物のみの法人化で建物賃料のすべてが新所有者の口座に入り、逆に建物譲り渡し人の口座には安い地代しか入金されません。
家賃収入を失い所得が減少することは被相続人の相続財産の減少となるため、相続税対策にはなるかも知れませんが、譲り渡し人が家賃収入を生活源とする場合は逆効果です。
イ.⇒ 無償返還届出方式が定番として利用されるのは、建物を法人所有とすることで借地権設定に伴う権利金の支払いや適正地代の支払い〈土地価格の6%)が免責され、地代も使用貸借と見なされない額であれば税法上の規制を受けないことが最大の採用要因です。但し、この方式では借地権価値がゼロのため土地を自用地価格で購入する必要があり、高額な土地に係る法人化は経済合理性の面からも困難です。
5.<定期借地権方式と無償変換届出方式との決定的違い>
ア.⇒100億円の個人所有土地を法人化するには100億円の買取資金が必要ですが定期借地権を設定すれば、幾つかの要件を満たすことで底地と借地権の交換が可能となり、殆ど資金調達をすることなく土地の所有権を個人から同属法人に移転できます。
イ.無償変換届出方式に基づく借地権価値がゼロであるのに対し、定期借地権では借地権が経済価値を有することで底地の所有権を個人から法人に移転(売買や交換)することが可能となります。土地(底地)の購入に対し、金銭のみならず借地権も交換対象となり得ることが重要なのです。
6.<土地の法人化には総合的な知識が求められる>
ア.⇒ 借地権設定に伴い、定期借地権は権利金支払いの慣習がないため権利金の支払いばかりでなく地代の規定もありません。
イ.⇒ 建物を買取り定期借地権設定後の措置として下記が考えられます。① 土地(底地)の買取りや交換 ② 当初契約で建物譲渡特約を付加し交換で土地(底地)を取得した後、(契約後30年経過後)建物を買取り借地権を消滅させる(借地借家法24条)。*借地権者の事情で借地権を消滅させるには当初契約で解約特約を付記し、借地人側に合理的・合法的な解約事由が存すれば30年未満でも可能。
ウ.⇒ 最小の費用で土地の法人化(売買・交換)を行うには当初契約(各種項目の設定)が適切になされているか否かが極めて重要であり、借地借家法や民法、税法、不動産鑑定評価基準等の知識を有機的に駆使できることが不可欠です。
(当社にはその蓄積があります)