無償返還届出を定期借地権に変更すれば 012-012 「最小の費用で土地の法人化を行うためには!」 1.定期借地権方式による底地と借地権の交換 ア.⇒<定期借地権と底地の交換の骨子> 借地権と底地の交換は行われていますが定期借地権と底地の交換は皆無で、世間にはその必要性もメリットも知られていません。何故、借地権でなく定期借地権なのか、それは借地権の場合は設定に際して権利金の支払いが必要だからです。無償返還届出方式でも権利金支払いは不要ですが何故、定期借地権なのかを説明します。 ① 定期借地権には権利金支払いの慣習がないこと ⇒ 権利金支払いが不要となり、地代も使用貸借とならない程度でかまいません。 ② 定期借地権は経済価値を有します ⇒ これによって、底地との交換が可能となります。交換差額が20%以内なら等価交換と見なされ、差額金の支払いは不要です。更に交換時には所得税や住民税が課税されません。又、交換差額が20%を超しても差額分を支払えば交換は可能となります。無償返還方式では土地を法人化するためには土地額の全額の支払いが必要です。定期借地権ならば借地権と底地の交換によって、借地権者が底地権者になれます。これにより被相続人(底地権者)が借地権者に変わるため、土地の相続税からの回避が可能となります。 ③ 現在の国税庁の相続税に係る財産評価基準に於ける借地権評価は権利金や保証金等の一時金の支払いが行われていないならば、借地権の査定額は著しく安い査定額となっています。この効果は自社株評価に有利に働きます。 イ.⇒定期借地権と底地の交換によって土地の法人化を図るには借地権と底地の価額差額が重要となりますが、高額な土地でも価額に関係なく、差額が高い価額の20%以内ならば等価交換と見なされ、課税の繰延べにより交換時に於ける不動産所得税・住民税が非課税となること(将来の売却時には課税される)、及び、価額差額が20%を超す場合は不等価交換として不等価相当分の交換差金を支払えば交換が可能となること(等価交換ではないため課税の繰延べはできない)。なお、 等価・不等価に係わらず交換差金を受け取ればその額に対応する所得税・住民税が課税されます。なお、建物は交換せずに単独で売買します。土地と建物は同種の固定資産ではありません。借地権付建物と土地(底地)を交換すれば交換自体を否認されることがあります。 ウ.⇒<定期借地権設定の前後に> 留意すべきは、国税の財産基本基本通達では底地価格は定期借地権査定額より高い査定額となる計算式が設定されているため、被相続人(個人)が同族法人の株主であれば法人が未だ底地や更地を所有していない時期、具体的には定期借地権設定前か、定期借地権設定後でも借地権と底地を交換する前に自社株を評価し、承継人に一括贈与することです(相続時精算課税制度による)。土地を法人が所有していなければ自社株評価は低くなるからです。又、個人(被相続人)が所有する底地や更地(自用地)が交換によって法人に移転すれば、被相続人(個人)の相続財産は減少します。 エ.⇒<借地権者の申し出による契約解除> 借地権者の申し出による契約解除は可能です。そのためには期間内解約を特約事項とし、当初契約書に記載しておく必要があり、同時に借地権者には合理的な解約理由を求められます。借地権者の事情により契約解除を行うのであれば、借地権者には立ち退き料等の報酬を請求する権利はありませんが、借地契約の解約によって定期借地権は契約期間内でも消滅します。又、当初契約を「建物譲渡特約付き定期借地権契約」とした場合、設定後30年を経過すれば底地権者は借地権者から建物を買い取れ、合理的根拠がなくても借地契約を解除することができ、底地と借地権の混同により土地は更地(自用地)となり、同族法人は土地の完全所有権を得ます。 2.無償返還届出方式による土地の法人化は困難 ア.<権利金が免責される借地権> 複数の賃貸建物を有する場合に管理会社(同族法人)を設立し建物だけを身内が経営する同族会社で買い取れば(土地は高額なため買えない)、 家賃収入の全部が法人口座に振り込まれ、個人地主(被相続人)には地代のみが振り込まれます。これにより個人(被相続人)の財産が減少し、相続税対策にはなります。又、建物のための土地利用権(借地権)は無償返還届出書を連名で税務署に提出します。これによって権利金支払いが免責され、地代は公租公課程度より明らかに高めの額であれば使用貸借とは見なされません。但し、無償返還する借地権は経済価値を有しません。 イ.<経済価値を有する借地権> これに対し定期借地権設定に基づく借地権は単独で売買・交換ができ、交換により多額の資金を要せずとも土地の法人化が可能となります。又、土地の法人化ができなければ高額な土地に係る相続税が将来に渡って永久に課税され続けられ、相続の度に財産が減少し続けます。借地権と底地の交換の効果は被相続人が定期地権者となることですが、交換による交換差額割合が高い方の20%以内ならば、定期借地権と底地の交換が可能で且つ課税の繰延べが認められ(売買がなかったものとされる)、交換時の課税が非課税となります。 ウ.<国税通達に基づく定期借地権の評価> 借地権設定後に借地権と底地を交換した場合、同族法人は土地(底地)を所有し、個人(被相続人)は定期借地権を取得することになりますがその際、国税の財産評価基本通達では定期借地権価値は一時金(権利金や保証金)の支払いが無ければ安い査定額となる数式となっています。そのため法人が土地(底地や更地)の所有権者となる前に被相続人が所有する自社株を承継者に一括贈与(相続時精算課税制度)してしまうことが株価対策には重要です。 エ.<賃貸人の地位の留保> 又、被相続人が所有していた収益建物を同族法人に安く売却してしまえば被相続人(個人)は家賃収入の総てを失い、生活に支障が生じる場合もあります。その際、家賃収入の一部を今まで通り被相続人の個人口座に振り込ませることを可能とする「賃貸人の地位の留保」(民法605条の2)の適用を建物売買契約や交換契約での契約条件とすることも可能です。 3.自社株に対する課税対策 ア.<特例事業承継税制の対象法人とは> 特例事業承継税制の対象となる法人(中小企業)は、非上場の自社株を所有する経営者が事業承継者に対し株の一括贈与を行うことで贈与税及び相続発生による相続税の支払いが免除されます(手続きは煩雑)。これに対し、個人で複数の共同住宅等の不動産を所有・管理しているような資産管理会社や風俗営業等は原則として上記の特例事業承継税制の適用対象とはなりません。そのため高額な相続税の支払いを余儀なくさせられます。 イ.<定期借地権方式でなければ> 無償返還届出方式の場合、代表者が所有する自社株は土地を更地評価されるため(自社株を所有していなければ更地の80%評価)、相続税も高額となり額額支払いのために、他に所有する土地等を売却換金しなければならない事態も十分考えられます。 自社株評価においても純資産価額方式による株価の評価は、定期借地権を設定する際に権利金や保証金等の一時金を支払わなかった場合、定期借地権価値は安く評価される計算式が適用されており自社株の評価を下げる効果も大です。 4.定期借地権方式への変更 ア.<無償返還届出方式の既適用者へ> 無償返還届出方式を既に適用されている法人の方は建物が法人所有となっているはずなので、無償返還届出方式を定期借地権方式に変更すれば土地の法人化が最小の費用で行える可能性がより高くなります(無償返還届出方式も当事者間の合意で契約解約は可能です)。 イ.<相続に係る節税対策は生前対策が総て> 相続発生後は原則、財産評価基本通達(国税庁)によって査定することが著しく不当な場合でしか、不動産鑑定評価基準に基づく評価(国交省)は採用されません。 当社は「不動産のコンサルタント・鑑定評価」及び「契約書の作成」を行います。ご相談ください!(℡ 042-667-0509:不動産鑑定士 酒匂 悦郎(サコウ エツロウ) リンク ⇒ 不動産の法人化手法の比較(無償返還届出と定期借地権)